火災通報装置のIP回線網移行への対応について

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皆さんこんにちは。

表題の通り令和6年にかけて消防指令台の電話回線が徐々にIP回線網へ移行するのにあたり、防火対象物に設置されている火災通報装置もこれに対応していかなければならなくなりました。

今回は上記の対応について各関係機関からパンフレットなどがでていますが、どのような対応をすれば良いのかよくわからない部分がありますのでこれらを解説していきたいと思います。

またこれからするお話は筆者が独自に調べたものを掲載していますので、所轄消防などによっては対応が異なる場合がありますので予めご了承ください。

 

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IP回線網への移行の経緯

今まで(平成28年改正告示対応品が発売される前)は、消防機関へ通報する火災通報設備(以下、火災通報装置)にはアナログ電話回線(例外としてターミナルアダプターを用いたISDN回線)を接続しなければなりませんでした。

ですが今般アナログ回線に代わり光回線(IP回線(インターネットプロトコル回線)を使用した光電話など)が急速に普及してきた影響により、アナログ回線はだんだんと使用されなくなってきました。

また、固定電話網(アナログ回線)の中継・信号交換機などが老朽化してきて、令和7年頃に維持できなくなるおそれがあるそうです。

上記のような理由により消防指令台もIP回線網対応の指令台に替わっていくことになり、今回のような事態になりました。

このアナログ回線からIP回線網に替わるとどんな障害がでてくるのかを下記で解説していきます。

 

IP回線網移行に伴い発生する事象とその改善策などについて

では、上記の移行を行うとどのような障害が発生するのか、またその改善策を下記で確認してみましょう。

 

事象1

  1. 火災通報装置を接続している加入電話回線がナンバーディスプレイ契約やモデムダイヤルイン契約をしている場合に、コールバック時又は自動呼び返し時に通話を成立させる呼び出し信号(着信があることを電話機に伝える信号のこと、以下、IR信号という)の前に情報信号(電話番号などの情報通知を伴う着信があることを電話機に伝える信号のこと、以下、CAR信号という)が発生される。
  2. 特定の火災通報装置は先に発信されたCAR信号をIR信号と誤認識して呼び出し音が鳴動してしまう。
  3. CAR信号発出の6秒後にIR信号が発出されるため、その6秒間に火災通報装置の受話器を取ってしまう(オフフックする)と通話が成立しない事象が発生してしまう。

 

事象2

  1. 火災通報装置を接続している加入電話回線がPBダイヤルイン契約をしている場合、コールバック時又は自動呼び返し時に火災通報装置と通話が成立するためには、受話器を取った(オフフックする)後にIP回線網から発信される内線指定番号(着信時にダイヤルイン番号を電話機に伝える信号のこと、以下、PB信号)に対して受信完了信号を返す必要がある。
  2. だが、すべての火災通報装置はこの受信完了信号を返すことができないのて、話中状態となり通話が成立しない事象が発生してしまう。

 

これらの事象が発生する条件

発生する条件として以下のものがありますが、上記の事象1については以下の条件が全て該当するときで、条件2については1,と2,に該当する場合に不具合が発生する。

  1. ナンバーディスプレイモデムダイヤルイン又はPBダイヤルインの各種契約をしている。
  2. 上記1,の契約をしている加入電話回線と火災通報装置を接続している回線が同じ(又は共用している)である。
  3. 火災通報装置の型式が特定のものに該当する。

※特定の型式の火災通報装置や、その他最新情報は下記のリンクから確認できます。

火災予防 | 火災予防等 | 総務省消防庁
火災の予防や消火、救急、救助など国民一人ひとりが安心して暮らせる地域づくりに取り組む消防庁の情報を発信しています。

 

これらの事象の改善方法

上記の事象1については、下記のいずれかの措置を講ずることにより改善されます。

事象2については、下記の1,又は2,の措置を講ずることにより改善されます。

  1. 不具合を発生させている契約等(ナンバーディスプレイモデムダイヤルインPBダイヤルイン)の契約をやめる。
  2. ナンバーディスプレイ契約などをしている加入電話回線と火災通報装置の回線を分ける。
  3. 火災通報装置をCAR信号に対応している機種(平成28年改正告示対応品)に交換する。

詳しくは後述します。

 

IP回線移行への対応について

火災通報装置に接続できる電話回線について

上記でもお話しましたが、基本的にはアナログの電話回線を接続するのが一般的(平成28年改正告示対応品ではないもの)で、例外としてターミナルアダプター(以下、TA)を接続したISDN回線も接続することができます。

それはなぜかというと、火災通報装置がアナログ回線を接続することを想定して作られているからです。(なのでTAを接続したISDN回線を接続するのは本当に例外)

ですので、TAを接続しないISDN回線やADSL回線、IP回線を接続すると消防指令台からの逆信が受けられなかったりと、正常な通報動作ができなくなる恐れがありました。

ですが平成28年の法令改正によりIP回線網にも対応した火災通報装置(以下、平成28年改正告示対応品)が登場しましたので、現行発売されている火災通報装置(平成28年改正告示対応品)はIP回線にも接続することができます。

 

火災通報装置の関係法令について

火災通報装置における仕様などの決まり事が消防法関係法令に記載がありますので紹介したいと思います。

消防法施行規則第25条第3項第2号に

「火災通報装置の機能に支障を生ずるおそれのない電話回線を使用すること。」

となっています。

これは支障を生じない回線に繋いで使用してくださいということで、アナログ回線、又は発信者の位置情報を取得できるIP電話回線に火災通報装置を接続してくださいとなっています。

さらに消防法施行規則第25条第3項第3号に

「火災通報装置は前号(消防法施行規則第25条第3項第2号)の電話回線のうち、当該電話回線を適切に使用することができ、かつ、他の機器等が行う通信の影響により当該火災通報装置の機能に支障を生ずる恐れのない部分に接続すること。」

との文言が記載されています。

これは、火災通報装置を電話回線のどこに接続すれば良いかという部分で、アナログ電話回線を使用する場合は、従前のとおり屋内の電話回線のうち電話機等と電話局の間となる部分のことで、IP電話回線を使用する場合は、デジタル信号を伝送する電話回線の部分とアナログ信号を伝送する電話回線の部分からなる屋内のIP電話回線のうち、回線終端装置等からアナログ信号を伝送する電話回線の部分を指します。

 

平成28年改正告示対応品について

ではこの平成28年改正告示対応品とはどのようなものを言うのでしょうか?

これは平成28年2月24日に出された消防予第49号通知「消防法施行規則の一部を改正する省令及び火災通報装置の基準の一部を改正する件の公布について(通知)」に記載されている省令及び告示の改正により、これまでアナログ回線にしか接続を想定していた火災通報装置をIP回線網に対応させること(IP電話回線を使用する場合等の火災通報装置に係る技術上の基準等を定めるもの)ができるようになりました。

要するにこれまでの火災通報装置(平成28年改正告示対応品ではないもの)はアナログ回線に接続することを想定した技術上の基準で作られていましたが、この改正によりこの技術上の基準をIP回線網にも接続するという想定での基準に改正したということになります。

これにより火災通報装置の本体のIP回線網への対応や、回線終端機(ONUなど)への予備電源の接続に関わる部分や関連するその他の規定ができました。

これらの法令改正に対応した(IP回線網に接続することができる)火災通報装置のことを「平成28年改正告示対応品」といいます。

ただし、電話番号が050で始まるIP電話回線(発信者の位置情報を取得できないもの)や電話番号がない電話回線には接続できない(消防へ通報そのものができない為)。

 

パンフレットなどに記載されている用語解説

これらの対応を促しているパンフレットですが、読んでみると専門用語がちらほら出てきてよくわからない部分がありますので、これらの用語を解説していきたいと思います。

 

(1)ナンバーディスプレイ

着信した相手の電話番号をディスプレイに表示するサービスのこと(184とか186のやつ)で有料オプションになっています。

使用できる回線はアナログ・ISDN、ひかり電話で使用できます。

 

(2)モデムダイヤルイン

1本の電話回線で複数の電話番号を使用できるNTTのサービスの1つ。

例として、1つの電話番号でも固定電話とFAXでそれぞれ違う番号を使えるサービスで、この方式を使用するにあたりPBX(回線切替機・内線交換機などのこと)を使用している。

 

(3)PBダイヤルイン

1本の電話回線で複数の電話番号を使用できるNTTのサービスの1つ。

上記のモデムダイヤルインと内容は一緒で、違う部分は上記のモデムダイヤルインはダイヤル方式の場合のもの。

PBダイヤルインはPB方式(プッシュボタン方式)の場合のもの。

 

(4)PB方式(プッシュ方式)

電話使用時(ボタンを押した時)にピ・ポ・パと音がする方式のもので、音の周波数によりダイヤルナンバーを識別している方式。

 

(5)DP方式(ダイヤル方式)

電話使用時(ダイヤルを回したりボタンを押した時)にカチカチとか、ジ・ジジーと音がする方式で、このカチカチの音の回数(ダイヤルパルス信号)でダイヤルナンバーを識別している方式。

FAXが届く時にこのカチカチとかジ・ジジーと音がするのはDP方式。

 

(6)IP回線の種類

IP回線とは上記でもお話しましたが、インターネットプロトコル(インターネットでデータをやり取りするときの決まり事の様なもの)を使用した通信回線のことです。

このIP回線の種類には

    • ADSL
    • 光回線(ひかり電話など)
    • 高速モバイル通信(3GやLTEなど)
    • CATV

があります。

これらの他に電話番号がないタイプ(LINEやスカイプ)も該当します。

火災通報装置でIP電話回線を使用する場合は、050から始まる電話番号の回線(発信者の位置情報を取得できないもの)には接続出来ませんので注意ご必要です。(119番に通報出来ない為)

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具体的な対応策

では上記を踏まえて具体的な対応策をお話させていただきます。

下記の対応策は筆者が独自に調べたものを掲載していますが、所轄消防によっては対応が異なる場合がありますので、事前に所轄消防へ相談されることをおすすめします。

対応策は当該防火対象物に設置されている火災通報装置が「平成28年改正告示対応品」であるか否かで対応を分けましたので、いづれかの対応になります。

 

改正告示対応品以外の火災通報装置の場合

改正告示対応品ではない火災通報装置の場合は、通報ができるできないに関わらず火災通報装置本体を改正告示対応品への交換を推奨します。

上記でもお話しましたが、改正告示対応品ではない火災通報装置はIP回線に接続するという前提で作られていないからです。

ですので、今は通報動作ができてしまう場合もあるかもしれませんが、火災通報装置の通報動作を保証することができません。

これらのことにより火災通報装置本体を平成28年改正告示対応品へと交換を推奨します。

ですがリーフレットでは各種サービス(ナンバーディスプレイやモデムダイヤルインなど)を使用していないIP電話回線なら問題ないという感じにも受け取れる(各種サービスと併用する場合には本体交換が必要)ので、この辺の判断は所轄消防によりきりといった感じです。

 

改正告示対応品の火災通報装置の場合

この場合には火災通報装置本体の交換は不要で、各種サービス(ナンバーディスプレイやモデムダイヤルインなど)の設定がない電話回線(発信者の位置情報を取得できる電話回線)へ接続すれば問題ありません。

メーカーによってはナンバーディスプレイやモデムダイヤルインの機能がある回線であっても火災通報装置を接続できる場合がありますので、確認してみましょう。(PBダイヤルインは不可)

 

まとめ

最後までご覧いただきありがとうございます。

今回はIP回線網への移行に伴う火災通報装置の対応についてお話させていただきました。

筆者の周囲でも今回の対応についてよくわからないという意見をよく耳にしますので今回の記事作成に至りました。

対応については上記の「具体的な対応策」で解説してありますので確認してください。

あと、これらの電話回線の変更をNTTなどの電話事業者にお願いするときに、火災通報装置が通報するときに使用している電話番号を消防設備点検などの時に確認しておくとスムーズになります。

筆者が以前火災通報装置の使用回線がIP電話回線に変更になった時に火災通報装置が通報できなくなり電話事業者へ調査などをお願いしたときに、電話事業者から使用している電話番号教えてと言われた事があり、電話番号を確認するために当該防火対象物へ訪問したことがありましたので、事前に確認するようにしましょう。