不活性ガス消火設備とは

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皆さんこんにちは。

一概に消火設備といっても色々ありますが、今回は不活性ガス消火設備についてお話させていただきます。

どのようにしてガスで火を消すのか?、またどのような設備構成なのかなどをお話させて頂きます。

 

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ガスを使った消火設備について

ガスを用いた消火設備には不活性ガス(4種類)とハロゲン化物(今現在は4種類)のいずれかのガスを用いることができます。

ハロゲン化物はフッ素や塩素、臭素などのハロゲン系列の元素を含んでいる化合物であり、主な消火原理は燃料と酸素の化学反応を抑制して消火する仕組みになっています。

ハロゲン化物の種類には

  1. ハロン1301
  2. HFC-227ea
  3. HFC-23
  4. FK-5-1-12

があります。

以前は上記以外にもハロン1211とハロン2402というものもありましたが、オゾン層を破壊する原因のひとつとされて生産中止になったため、現在ではあまり見かけません。

ちなみにFK-5-1-12(ドデカフルオロ-2-メチルペンタン-3-オン)は特殊消防用設備等としても認可されている消火薬剤になっています。

特殊消防用設備等について詳しくは下記の記事を参照してください。

ハロゲン化物消火設備についてはまたの機会にお話させて頂きます。

 

ガスで火が消えるの?

今回の不活性ガス消火設備は、火災の際に不活性ガス(二酸化炭素ガスや窒素ガスなど)を放出して消火するという設備になりますが、どのように消火しているのでしょうか?

まずは火が燃えるという原理からのお話になります。火が燃えるには

  1. 燃える物品(可燃物)
  2. 火を起こす現象(点火源)
  3. 燃焼の支援(酸素の供給)

の3つが必要です。これらを「燃焼の三要素」といい、最近ではこれらに燃焼の連鎖という項目を追加して「燃焼の四要素」とも言います。

上記の燃焼に必要な要素の1つでも欠けると燃焼が継続せず火が消えます。

この原理を応用して不活性ガス消火設備は、火災現場の酸素を不活性なガスで酸欠状態にして、なおかつ放射するガスによる冷却作用(液化二酸化炭素などが気体になるときに周りの熱を奪う気化熱の効果。)により火災の継続を中断させて消火する設備になります。

この消火方法は酸素の遮断にて消火するので火災現場を消火薬剤(水や粉末など)で汚損することなく消火することができるのですが、二酸化炭素ガスを放出する方式のものは火災現場に二酸化炭素を多量に放出するために火災現場に人間がいると二酸化炭素ガスにより酸欠を起こし死亡する危険性もある消火設備になりますので、人間が頻繁に出入りしない部分(立体駐車場や電算室やボイラー室など)に用いられます。

 

不活性ガスの種類について

不活性ガス消火設備に使用されるガスには以下のものがあります。

  • 二酸化炭素(低圧式と高圧式)
  • 窒素ガス(IG−100)
  • IG−55(アルゴナイト)
  • IG−541(イナージェン)

二酸化炭素ガス(低圧式)

この二酸化炭素方式は、二酸化炭素が零下18℃以下の温度で貯蔵されているものになります。零下18〜20℃で貯蔵するので、専用の自動冷凍機を用いて冷やします。

よく用いられる高圧式の二酸化炭素に比べて圧力が低いので配管や継手の厚さを抑えることができたりするメリットがあります。

ただ、常時二酸化炭素を冷やしておかないといけないので、冷凍機などのランニングコストがかかるデメリットもあります。

 

二酸化炭素ガス(高圧式)

よく見かける方式のものになります。液化二酸化炭素を高圧容器に封入したものをボンベ室などに常温で設置しておき、使用時にその液化二酸化炭素を気化させて放出する方式になります。

低圧式みたいなランニングコストはかかりませんが、放出時に高圧のガスが出るので配管や継手を高圧に耐えられるものを使用しなければならないというデメリットはあります。(高圧式の継手は16.5Mpa以上に耐えられるものを、低圧式の継手は3.75Mpa以上に耐えられるものを使用する。)

 

窒素ガス

皆さん御存じの通り、大気中のおよそ78%を占める気体です。ガス自体も安価でコストを抑えることができますが、使用するガス量が多いということと、使用(設置)できる環境がかなり限られているのであまり見かけない消火設備とも言えます。

(防護区画の面積が1,000㎡未満又は体積が3,000㎥未満で、かつ、多量の火気を使用したり指定可燃物を貯蔵したりしない等の部分に限る)

 

IG−55(アルゴナイト)

このガスは、窒素ガスとアルゴンガスの比が50:50のものを言います。

火災現場の酸素濃度を低下させて消火するガスになりますが、単純に酸素を低下させるので人体には危険で、早めの退避(概ね3分以内)が必要になります

上記窒素ガスと同じで使用(設置)できる環境は限られています。

 

IG−541(イナージェン)

このガスは、窒素:アルゴン:二酸化炭素が52対40対8の混合ガスになります。

アルゴナイトと同じで酸素濃度を低下させて消火しますが、こちらは二酸化炭素を含有しているのでアルゴナイトに比べて人体には安全らしいです。

またオゾン層破壊係数や地球温暖化指数は窒素ガス、アルゴナイト、イナージェン共にほぼ0です。

 

放出方式について

不活性ガス消火設備は消火するのに二酸化炭素ガスや窒素ガスを放出しますが、この放出にも以下の種類があります。

消火ガス放出方式の例

全域放出方式

これは部屋内(防護区画内)全域にガスを放出して消火する方式になります。

この方式は二酸化炭素ガス方式と窒素ガス方式(IGー55、IGー541含む。)のどちらにも使用できます。

部屋内に消火ガスを充満させないといけないので、消火ガス放出時には換気口やダクトなどの開口部を閉鎖して(ダンパーやシャッターなど)消火ガスが逃げないような措置をとります。

また窒素ガスなどは高圧のガス(およそ30Mpa)をそのまま送るために部屋内の気圧が上がってしまうので、避圧口と呼ばれる圧力を程よく逃がす装置も設けます。

 

局所放出方式

この方式は一部分(防護対象物)にだけ直接消火ガスを放出して消火する方式になり、例えばボイラーなどの常時固定された火気使用機器にむけてガスを放射して消火するものになります。

この方式は二酸化炭素を放射する方式だけにしか認められていません。

 

移動式

不活性ガス消火設備(移動式)の例

この方式は、定められた場所(防護対象物の近辺)に消火薬剤貯蔵容器を設けておき、付属のホース・ノズルを手動で操作(ホースを伸ばしてノズルを火元に向ける)して消火薬剤を放射して消火を行うものになります。

固定された二酸化炭素消火器の大きいものと考えてもらえればわかりやすいかと思います。

ただし二酸化炭素ガスが多量に放出されますので、火災の時に煙が著しく充満するおそれのある場所や無窓階には設けることができません。

この方式も二酸化炭素を放射する方式だけにしか認められていません。

 

不活性ガス消火設備の構成機器

不活性ガス消火設備の構成機器には以下があります。

  • 消火薬剤貯蔵容器(薬剤ボンベ)
  • 起動用ガス容器(起動ボンベ)
  • 容器弁開放装置
  • 閉止弁(二酸化炭素方式のみ)
  • 連結管
  • 選択弁(放出系統が複数ある場合)
  • 消火設備制御盤
  • 非常電源・配線(蓄電池設備が多い)
  • 安全装置(安全弁など)
  • 噴射ヘッド
  • 音響警報装置(サイレンや音声警報)
  • 手動起動装置
  • 放出表示灯
  • 配管(継手を含む)
  • ダンパー及びシャッター(開口部閉鎖装置)
  • 避圧口(窒素ガス系のみ)
  • 火災感知器(放出を自動で行う方式のみ)

ガスの種類や、複数放出系統の有無などにより使用する機器が増減しますが主だったものは以上になります。

 

まとめ

最後までご覧頂きありがとうございます。

今回は不活性ガス消火設備に触れましたが、

(1)ガス系消火設備には不活性ガスとハロゲン化物があり、不活性ガスは4種類、ハロゲン化物は4種類あります。

(2)不活性ガスには二酸化炭素(低圧式と高圧式)、窒素、アルゴナイト、イナージェンがあり、それぞれ特徴があります。

(3)ガス放出方式は3種類(全域、局所、移動式)あり、局所と移動式は二酸化炭素方式しか認められていない。

今回の記事では上記のことが理解して頂ければ十分です。

ガス系消火設備を点検等するときは連動している設備(ボイラーの停止や空調の停止など)を良く確認して連動を遮断等してから点検等を行うことをおすすめします。