消防業界における労働基準法

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皆さんこんにちは。

今回は最近ツイッターのフォロワーさんに社会保険労務士さん(以下、社労士さん)が増えた事もあって、タイムラインに労働基準法のツイートが増えたので、このブログに勉強に来てくださる方々に労働者の生活を守るこの労働基準法も広く知っていただきたくて記事にしてみました。

それなので難しい話はしないで、「こんな感じだよー」で解説していこうと思います。

※記事の作成に御協力していただいた方の詳細は記事最下部にあります。

 

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労働基準法について

まず労働基準法について軽くおさらいしていきます。

労働基準法は、労働条件の最低条件を定める規定として日本国憲法の第27条第2項に基づき1947年に制定された法律で

  • 労働契約
  • 賃金
  • 労働時間
  • 休日および年次有給休暇
  • 災害補償
  • 就業規則

等の労働に関する項目について細かく定めている法律になり、これらの規定は例え労使間(経営者と労働者の間)で合意があったとしても関係なく適用される強制法規なので、「うちの会社は残業代なんか出ないんだよ、解っているよね?」といくら主張や合意があったとしても労働基準法の規定より下回っている条件・箇所については無効ということになります。

 

よくある労働基準法違反の例

ではこれからは消防業界でもよくある労働基準法違反の内容とその対処方法について解説していきます。

事例① 労働条件の通知がない

まずは労働条件を通知しない違反についてです。

これは会社が労働者を雇用(正社員、アルバイトやパートも含む)する際にはお互いに労働に関する契約を結ばなければならない決まりがありそれは口約束でも契約できるのですが、これについては「雇用契約書」などの書面にて交わすのが一般的になります。

重要なのは労働者に対して「あなたをこういう条件で雇用しますよ」という文面による意思表示が必要になり、この文面を「労働条件通知書」と言います。

この「労働条件通知書」にて最低限通知しなければならない要件として

  • 労働契約の期間に関する事項(例:無期とか1年契約とか)
  • 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項(契約を更新する場合があるとか契約更新の判断基準とか)
  • 労働に従事する場所(現場なら「指定する現場」とか)
  • 従事する労働の内容(消防設備の点検とか)
  • 労働時間(始業・終業時間とか時間外労働の有無とか)
  • 休憩時間や休暇、休日等に関する事項(12時から1時間とか隔週土曜とか)
  • 賃金に関する事項(決定方法、計算の仕方と締め切りや支払い方法、支払い時期、昇給)
  • 退職に関する事項(解雇含む)

上記の内容は最低限明示が必要な項目になっています。

この通知書は労働者を雇用する場合に必ず通知しなければなりませんが通知を行わない経営者は非常に多くて、筆者も数社の消防設備関係の会社に勤めたことがありますが、全ての会社においてこの通知書の交付がありませんでした。

ではなぜこの通知書が重要かと言うと後々のトラブルを回避するためで、例えば入社時には「基本給は20万円」と聞いていたのに、いざ給与を確認するとその金額より安く、聞いてみても「そんな事は言っていない」と白を切られるという事案があるからなので、知っておきたい知識になります。

もし現在お勤めの会社でこの「労働条件通知書」の通知が無い場合は経営者(又は担当者)に確認を行い、万が一通知をしないと言われたらすぐに労働基準監督署へ連絡しましょう、すぐに対応してくれます。

 

事例② 残業について

これもよくある事案で、まずは残業について解説します。

一般的に終業時間を超えての労働が多いため「残業」と言うようになりましたが、正確には「時間外労働」のことを言い、所定労働時間(会社が労働時間として定めた時間、例:始業8時、終業17時で休憩1時間の実労働時間が8時間)以外の時間に労働を行った時間の事を指します。勘違いしやすい為以後この残業の事を「時間外労働時間」と言います。

基本的に所定労働時間以外の時間の労働になりますので、いわゆる「早出」(始業時間前の労働時間)も、この「時間外労働時間」に含まれますし、現場への移動も労働になるので「時間外労働時間」になることがあります。

よくある「今日は忙しくて10時の30分休憩も15時の30分休憩も取れなかったわ」という事案ですが、これも所定労働時間以外(休憩時間)に労働を行っているので「時間外労働時間」の対象になります。

筆者が以前関わっていた会社にも一定数「早出」や「労働した休憩時間」において労働時間に含めない会社がありますので、労働者はこの「時間外労働時間(いわゆる残業)」について正しい知識を持ち、いわゆるサービス残業を撲滅していかなければなりません。

対応策として、タイムカードがある場合には早出にしろ残業にしろ自分で打刻を正確に行い(他人にタイムカードを切らせない)、定時終業時間にタイムカードを切らせた後にサービス残業を行わせる場合などには、自分で正確な就業時間(〇時始業、〇時終業)を手帳などに記録することにより、後々裁判等になった際の有力な証拠となりますので日々記入していきましょう。

タイムカードがなく紙ベースで日報という形で就業時間を記載する場合は、正確な時間を記載する(時間を盛ったり改ざんしない)ことはもちろんのこと、日々の日報を写真撮影するなどして証拠を押さえておき、始業の時間の記入場所がない(早出しているのに始業時間の記入箇所がないなど)場合にも手帳などに始業時間、現場名、同行した人の名前などを記録しておきましょう。

所定労働時間を含めて1日8時間、一週間40時間を超えているときの時間外労働は「法定労働時間外労働」となり、割増がつきます(下図参照)。

所定労働時間と法定労働時間外労働の例

 

事例③ 就業規則がない

会社内のルールを定めるものの1つとして「就業規則」がありますが、これは労使間におけるルールを定めてお互いにトラブルなく労働者が安心して働けるようにするためのルールになり、これにも「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」の二つがあるのでそれぞれ見ていきましょう。

  1. 絶対的必要記載事項 
    • 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
    • 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
    • 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
  2. 相対的必要記載事項 
    • 退職手当に関する事項
    • 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
    • 食費、作業用品などの負担に関する事項
    • 安全衛生に関する事項
    • 職業訓練に関する事項
    • 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
    • 表彰、制裁に関する事項
    • その他全労働者に適用される事項
この就業規則はその会社に常時従事する労働者(パート・アルバイト含む)が10人以上の場合にはこの就業規則を作成して労基署へ届け出る義務があり、かつ、その就業規則が労働者全員がいつでも見れるように掲示等の措置を取らなければなりません(周知の義務)

常時従事する労働者が10人未満の場合は就業規則を作成・届出する必要はありませんが、労働者の就業形態(変形労働制やフレックスタイム制を導入している)によっては就業規則の作成が必要になりますので確認してみましょう。

 

事例④ 有給休暇について

この有給休暇(正式には年次有給休暇という)は、上記でお話した「労働条件通知書」や「就業規則」に必ず明記されている事項ですが、これら労働条件通知書や就業規則がない会社に多く見受けられるのがこの有給休暇を取らせない事案です。

これらの通知等がなくても一定の条件に当てはまれば有給休暇を取得できる権利が発生しますので、いくら「うちの会社には有給休暇なんてものはないんだ」と豪語してもそれは無効で、厚生労働省のリーフレットでもしっかりと明記されています。

ある一定の条件の詳細については割愛しますが、普通の正社員であれば半年勤務すれば10日の有給休暇を取得できる権利が発生しますし、雇用形態に関わらずアルバイトやパートでも一定の日数出勤すれば有給休暇を取得できますので、出勤日数等を確認してみましょう。

また有給休暇を取得する際に届出書などに取得理由の記載欄がある場合には「私用の為」一択でOKであり、具体的な理由を記載する必要はありませんが、会社側が有給休暇取得理由を尋ねてきた場合に、有給休暇の取得の理由を尋ねることが「慶弔(けいちょう)休暇に該当するかしないか」なら問題ありません(法事での休暇を有給休暇で取得する等)。

ですが「そんな理由なんかで有給休暇なんかとらせない!」といった場合には違法なので覚えておきましょう。

一方で会社側は、事業の正常な運営に支障をきたす可能性がある場合に限り、有給休暇の取得時季を変更できる権利があります。交代要員の調整がどうしてもできず、仕事がまわらないような場合には、取得日の変更の相談があるかもしれません。

 

まとめ

最後までご覧いただきありがとうございます。

今回は労働者を守ってくれる労働基準法について解説してみましたけど、上記でご紹介した事案は本当に氷山の一角にすぎず他にも法令違反が見受けられる場合がありますが、基本的な事項として今回4つの事例をあげさせていただきました。

一番最初にもお話しましたが労働基準法は「労働条件の最低基準」なので、この法令すら遵守していないのに「わが社はコンプライアンスを~」といっても説得力がありません。

また労働者が労働問題(上記違反など)に関する裁判をおこす場合に「労働審判」という専用の裁判があり、通常の裁判に比べてかかる日数が少なく、基本和解で解決するという特徴がありますので労働者の方は覚えておきましょう。

本来であれば経営者側が労働関係法令の順守を行い、労働者が安心して働ける労働環境を用意するのが当然ですが、悲しきかな労働法令を守らずに労働者を安く使おうという経営者は一定数存在しますので、労働者は自分の身は自分で守らないとなりませんから学校では教えてくれない労働基準法を勉強していきましょう。

今回の記事はわかりやすさを優先させた構成になっています。
法違反が疑われる場合には自分で解決しようとせずに顧問社労士に相談いただくか、総合労働相談コーナー(下記URL)へお問い合わせください。

 

この記事を監修していただいた社会保険労務士の先生

虹と花社労士事務所  木村夕梨花先生
ご協力ありがとうございました。