皆さんこんにちは。
今回は建物オーナーさんや管理会社さんは非常に気になる「消防用設備等の点検に関わる料金」についてお話していきます。
「只でさえ生産性のない消防用設備にはお金をかけたくない…1円でも安くしたい…」というお気持ちは重々承知ではありますが、この業界は「安かろう悪かろう」が非常に多く下手をすると健全な設備を壊される恐れもありますのでこの記事を参考に良く考えて業者選定をしていただきたいと思います。
そもそも適正料金とは
よくネットで「消防用設備 点検料金 適正」と検索をかけると色々な業者さんが「うちはこんな規模用途ならこんなお値段で~」と宣伝していますが、あれはあくまでもその業者さんが「適正」としている価格であり、消防設備業界としての「適正価格」ではありません。
では何をもって消防設備業界の「適正価格」とするのかというと、例えば「建築保全業務積算要領」という国土交通省の指針などを用いて積算(設計図や仕様書などをもとに、使用する材料や数量を計算して、建築にかかる工事費(見積り)を算出する業務のこと)を行い算出した価格を適正価格とします。
ただこの積算方式で算出した価格はネットなどで見かける価格よりも高額になり顧客に選んでもらえなくなる為、自社である程度の利益を残しながらも他社との競合に負けない価格を「適正価格」として各業者が提示しています。
例えば「延べ面積250㎡の事務所、消火器5本、非常警報設備(複合装置)2台、誘導灯C級2台」くらいの小規模防火対象物があったとしても
- A社は消火器1本○円、非常警報1台○円、誘導灯1台○円で計○円
- B社は点検一括で○円
- C社は作業時間が○時間で○人なので○円
と見積り価格が各社すべて同じだったとしても算出方法は各々で変わりますので、防火対象物の規模、用途、設備によってバラバラになり、何の価格をもって顧客の「適正価格」なのかは微妙な所だと思います。
ただ、価格も重要な要素ですが、それ以上に大切なのは「点検を適正に行ってくれる業者であるか?」に尽きますので、それを解説していきます。
適正な点検業務とは
では点検を依頼している業者が「適正な点検業務」を行っているかについてお話させていただきます。
「適正な点検業務」とは一般財団法人日本消防設備安全センターが発行している「消防用設備等点検実務必携」という本に記載されている点検方法と内容を確実に履行するということです。
この点検要領には各設備における点検する部分、良否の判断内容などについてこと細かに記載されていて、私たち消防設備士(消防設備点検資格者)はこれを基に点検を行い良否を判定しています。
例えば私たちの身近にある消火器で言えば
- 本体容器に消火薬剤の漏れ・変形・損傷・著しい腐食がないかを目視にて判定する
- 安全栓(黄色いリング)が外れていないか・変形損傷がないか・確実に装着されているかを目視にて判定する
このように点検する項目とその判定基準が明確に記されており、これらの点検項目を誠実に行うことが「適正な点検業務」になります。
もちろんこれらの他にも「消火器本体等に支障がなくても、ぞうきんやはたきなどでごみ等の汚れを清掃すること」と留意事項がありますので、「消火器を清掃する」というのも点検業務に含まれています。
もちろん筆者も消火器の清掃は点検業務の一部なので当たり前の様にしていますが、お客様から「消火器をきれいにしてくれてありがとうございます」というお言葉をいただけたりするので、お客様の設備はきれいに、かつ健全にという気持ちで作業させていただいています。
ですが上記の様に「点検要領」という指針があるのにもかかわらず、それを遵守せずに適当な作業で最悪お客様の設備を壊してしまう悪徳業者も悲しきかな存在しますのでどのような感じなのかを解説していきます。
その点検業者危ないかも?
筆者も色々な客先・元請においてお話を伺ったりしますが、最近多いのは「今点検をお願いしている業者はちゃんとした点検しているのか不安」というご相談です。
発端として「客先が点検業者にあれこれ聞いても納得できる回答がない」というのがありますが、これに関しては設備をしっかり点検していればお客様の質問に明確に回答できますが、回答できない(又は回答があやふや)というのはしっかりと設備を見ていない・知識がないという事になります。
知識や経験がない(又は浅い)→適正な点検ができない→適当な点検になる(又は点検をしない)→適当な作業なので客先の質問に明確に答えられないという流れになり、そしてこのような知識や経験が浅い作業者しかいない業者は他業者と比べるとなかなか顧客を獲得できないので価格で勝負してきます、いわゆる「安かろう悪かろう」です。
ちなみにファストフードでは良く聞くフレーズですが、建設業では
- 旨い(業務を要領に従って処理できる)
- 早い(業務を短時間で処理できる)
- 安い(業務が上手なのに作業工賃が安い)
というのはまず存在しません、なぜかというと建設業において職人(技術者)を育成するのに莫大な費用と時間がかかり、それは消防設備業界においても同じで資格取得やOJT(各職場で実務経験を通して業務遂行に必要な知識や技術、経験などを身に付けることで、教育の一つ)に苦慮するからです。
さらに職人(技術者)を安い賃金で雇うものなら賃金の高い同業他社へ転職してしまう恐れがあり、そうするとこれまでにかけてきた教育へのお金を回収することができなくなるので、賃金を低くすることも難しいのです。
これらを加味すれば職人(技術者)を使用しての業務は高くなりがちというのはわかりましたので、では悪質な業者のあるあるを紹介していきます。
悪徳業者あるある
では消防用設備の点検業者で悪質と思われる事案をいくつか紹介していきます。
点検料金が相場の半分程度
突然営業にきた点検業者が「当社は今の点検料金の半額でやらせていただきます!」という事案、客先にとっては安くできると喜ぶかとおもいますが、それは悪徳業者かもしれません。
上記でお話したように建設業において「旨い、早い、安い」は存在しませんので、安い=適当と思っていただいて良いと思いますし、もちろん客先が業者に価格を下げさせるというのも同じで点検が適当になります。
はっきり言うと業者は赤字になるので点検料金以上のことはしません、安ければ消火器も清掃しないし消火栓放水試験もしなくなりますので、設備がだんだんと健全ではなくなります。
そうならない為にも点検にはしっかりと立会い、作業を監視して適正な業務を行っているかを確認して適正点検を行う業者であるかを見極める必要があります。
点検にかかる時間が異様に早い
消防用設備等は点検要領に従って各設備、各項目における判定基準にそって点検を行うので、異様に点検が早いというのは隅々まで点検を行っていないかもしれません。
もちろん熟練の技術者には業務を素早く遂行する者もいますがそれは少数で、基本的にはじっくりと確認を行う都合上時間がかかりますし、総合点検と呼ばれる点検の際には実際に放水試験を行ったりといった作業も増えるのでさらに時間がかかります。
例えば観光地にあるホテル(中規模以上)などで2人で点検作業を行い半日で作業が終わるとかはありえません、なぜならホテルには点検するべき設備がたくさんあり、客室の空き状況によってはすべてを1日で点検できないからです。
これも点検作業に立会ってすべての場所において点検をしているか見極める必要があります。
やたらと改修工事を提案する
そもそも点検料を安くすると点検だけでは売上があがらない(利益がでない)のでその分を改修工事で補填するという事例で、例えば正常に作動する火災感知器を不作動として指摘して改修工事を行い売上にするという悪質な行為もあります。
とくに改修工事で指摘する設備として多いのは「自動火災報知設備」と「誘導灯」で、なぜかというと例えば消火器ではネットで調べれば点検アプリなどが充実しており、不良と指摘しても見破られがちですが、これらの設備は素人があまり触らない、かつ知らない設備で不良をあげやすく、改修単価も良いからです。
逆に消火設備(屋内消火栓、スプリンクラーなど)などは少しも指摘があがらないのも特徴で、適正な点検ができないので指摘があげられない、かつ指摘をあげても自社で改修ができない(配管工事や部品の取り寄せができない)ので売上になりにくいというのもあります。
これについてもすべての設備(消火器具、消火設備、警報設備、避難器具等)に精通する業者を選定して適正な改修工事(改修計画)を行えるようにしましょう。
点検作業員が点検資格を保持していない
まずおさらいとして消防法において、有資格者でなければ点検できない防火対象物というのが決まっており
- 延べ面積1000㎡以上の特定用途防火対象物
- 延べ面積1000㎡以上の非特定防火対象物(山林と舟車は除く)で、消防長又は消防署長が火災予防上必要があるとして指定する防火対象物
- 特定一階段等防火対象物
上記の防火対象物を点検する場合には「消防設備士」又は「消防設備点検資格者」の資格が必要になりますので、詳しくは下記の記事を参照してください
「特定用途防火対象物」と「非特定用途防火対象物」について詳しくは下記の記事を参照してください
また特定一階段等防火対象物について詳しくは下記の記事を参照してください
上記以外の防火対象物であれば防火管理者などを含むどなたでも点検を行うことができますが、通常は消防用設備等の点検を行う会社にお願いすることが多いと思います。
ですが、この点検業者の中には無資格者に点検を行わせて、書類上は有資格者の名前を記載するという方法で平然と無資格点検をさせている業者が存在します。
また有資格者ではあるけど、技術や経験が非常に浅い作業員を点検責任者にして点検を行うという事例もあり、点検はまぁまぁできるけど設備の不具合を見抜けない(発見できない)ということもありますので、施主はまず実際に点検に来ている作業員が有資格者であるかどうかを確認するということが大切です。
点検作業に従事している作業員は免状の携帯義務があり(消防法第17条の13)、かつ提示を求められれば提示しなければなりませんので、あやしいと思ったら気軽に免状の提示をお願いしましょう。
最終的に設備を壊されるかも
上記の様な悪質な業者に点検をさせると最終的に設備を壊される可能性があります。
上記の写真は筆者がとある施設へ現場調査へ行った時に撮影した「自家発電設備」に内蔵されている「蓄電池設備」の蓄電池の写真ですが、見ての通り通常黄色いラインまで入っているべき電解液が少しも入っていません。
またこの自家発電設備はこの蓄電池のほかにも「冷却水が不足している」「燃料の軽油が真っ黒で異臭がする」「エンジンオイルは真っ黒ドロドロ」といった状態で、しっかり整備しても自家発電設備が使用できる状態に復元するかわからない現状ですので、最悪自家発電設備の入替となれば莫大な金額がかかってしまいます。
もし点検業者が適切に点検して整備を行い、電解液が不足した時に蒸留水を保水したり、オイル交換などをおこなっていればまだまだ現役で使える”はず”だったのに、ある意味この自家発電設備は「壊された」といっても過言ではありません。
まとめ
最後までご覧いただきありがとうございます。
今回は消防用設備等の点検に関わる料金の適正ということでお話させていただきましたが、
- ネットで見受けられる料金は「消防業界の適正料金」ではなく「その業者がそこそこの利益を出せて他社との競争に負けない程度の料金」
- 適正な点検業務とは財団法人日本消防設備安全センターが出版している「消防用設備等点検実務必携」という本の基準に沿って点検を行い良否を判定するということ
- 消防設備業界を含む建設業に「旨い、早い、安い」は存在しない、それは職人(技術者)を育成・雇用するのに莫大な時間と費用がかかるから
- 悪質な業者は作業員の知識・技術の不足分を価格で勝負してくる
- 最終的には設備を壊される可能性あり
というまとめになります。
では「うちで頼んでいる点検業者は大丈夫なの?」という問いにはお金もかけずにすぐに実行できる対策として
- 消防設備点検の内容について色々質問してみる
- 点検作業に同行して作業内容を注視する
- 点検作業員に免状の提示を求める
- 点検作業に建物図面を用いているか確認する
- 当ブログを含む同業他社への相談
これらの対策を実行してみて、あいまいな回答や不信感があればその点検業者は危ないです。
ちなみに質問の内容に関しては「○○の部屋は鍵かかっているけど鍵はどうしたの?」とか「客室○号室は今日滞在客いるけど点検できたの?」とか「会議室は会議中だったけど入室できたの?」などといった内容で十分であり、大切なのはその質問に明確に即答できるかということです。(自動火災報知設備の点検では基本的に感知器のあるすべてのお部屋に入室して感知器を点検します)
私たち消防設備士は「お客様に信頼していただける業務」を大前提としており、不信感を与える行動は絶対行いませんので、上記の様な対策をされても少しも動じませんし質問にも明確に回答できるような作業を行っていますから、「不信感=誠実ではない業務の可能性」となります。
消防用設備等という生産性のない設備への投資(設備保全)は無駄なお金を払っているかのような考えになりがちですが、せっかく設置した消防用設備等を適切に点検整備しなければ次第に作動しなくなり最終的にはただの鉄の塊と化し、設備の再整備やリニューアルに多大な金額がかかりますので、「とにかく安く」という考えから「納得のいく業務への正当な報酬」へ切り替えるのも必要かと思います。