防火管理者の責務と業務 その2

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皆さんこんにちは。

前回の記事で防火管理者の概要をお話させて頂きましたが、なにせ内容が多く1つの記事に詰め込むのが少々困難であったので2部制にさせて頂きました。

今回の記事では前回記載できなかった

  • 甲種防火管理者再講習
  • 複数の防火対象物や用途がある場合
  • 統括防火管理者とは
  • 防火管理業務の一部委託
  • 自衛消防の組織について

を説明させて頂きます。

ちなみに前回の記事は下記のリンクから御覧いただけます。

防火管理者の責務と業務 その1
この記事では防火管理者の責務と業務(前半)についてお話しています。防火管理者選任義務防火対象物、責務と業務(消防計画の作成とそれに基づく防火管理業務、適正な防火管理業務の遂行、防火管理業務従事者とは)について詳しく解説しています。

 

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甲種防火管理者の再講習について

以前は甲種防火管理者への再講習というものはありませんでしたが、近年では防火対象物の使用形態が多様化・複雑化している点や、日々更新されていく消防法規への対応など、防火管理業務を行ううえでの知識や技能が以前に比べて高度化していることなどを鑑みて、甲種防火管理者への再講習というものが出来ました。

 

(1)再講習が必要な甲種防火管理者

この再講習を受けなければならない甲種防火管理者は

  • 収容人員300人以上の特定防火対象物の甲種防火管理者
  • 甲種防火管理新規講習又は再講習を受けてから5年以内
  • 甲種防火管理新規講習により免状を取得した者
  • ただし、乙種防火管理者でも防火管理者になれる部分に関わる甲種防火管理者は除く

になります。

甲種防火管理者免状を甲種防火管理新規講習以外の方法で取得した方はこの再講習は必要ありません。例えば

  • 警察官や警察職員で、管理的又は監督的な職に3年以上あった者。
  • 大学や専門学校で防災に関する学科(課程)を修め卒業し、1年以上の防火管理の実務経験がある者。
  • 防火対象物点検資格者免状所持者。
  • 市町村の消防職員で管理的、監督的な職に1年以上あった者。
  • 甲種危険物取扱者免状を所持し、危険物保安監督者として選任されている者。

などの学歴・学識経験で免状を取得した場合は再講習の必要はありません。

 

(2)再講習までの期間

基本的には新規講習修了(再講習修了)を基準に、翌年度の4月1日から5年以内になります。例えば2013年6月1日に新規講習修了したら、その5年後の2018年度の末になりますので、2019年3月31日までに再講習が必要になります。

 

複数の防火対象物や用途がある場合の選任について

同一敷地内に複数の防火対象物がある場合や、1つの防火対象物に複数の用途がある場合の防火管理者の選任について、これはそれぞれの防火対象物(用途)の管理権限(管理権限者)が同じか否かで決まります。

防火対象物の用途を知りたい方は下記の記事を参照してください。

防火対象物とは
この記事では消防用設備には欠かせない防火対象物(政令別表第一の用途一覧)についてや、特定防火対象物と非特定防火対象物の違いなどについて詳細に説明・解説しています。また3項イとロの違いについて、6項における細分化についても記載しています

 

防火対象物の収容人員を詳しく知りたい方は下記の記事を参照してください。

収容人員の算定について
この記事では収容人数の算定についてお話しています。算定に関する一般的留意事項(機能従属やみなし従属の取扱い・従業員の取扱い・いす席の取扱いなど)と各防火対象物(用途)ごとの収容人数の算定方法と最後に遊技場を例とした算定例を詳しく解説しています。

 

(1)同一敷地内に2以上の防火対象物がある場合

例えば同一敷地内にすべて管理権原者が同一の

  • 12項・イ(工場)(収容人員30人)
  • 14項  (倉庫)(収容人員10人)
  • 15項  (事務所)(収容人員15人)

がある場合に、機能従属により全体の用途は12項・イの工場、収容人員は合計になるので55人となります。

機能従属について詳しくは下記の記事を参照してください。

機能従属とみなし従属について
この記事では防火対象物(用途)を決定する時に考慮される機能従属とみなし従属についてお話しています。防火対象物の用途選定の原則、機能従属として運用できる部分、みなし従属として運用できる部分、一般住宅が存在する場合の防火対象物の取扱いについて詳しく解説しています。

 

上記の様な防火対象物である場合には、非特定防火対象物ですが収容人員が50人を超えているので防火管理者を選任しなければなりませんが、これらの建物を1つの防火対象物として取り扱うことが出来るので、1人の防火管理者と1つの消防計画で管理できます。

ただし、3つの建物(用途)を1つの消防計画で管理をするのですが、防火管理業務は統一的に行う必要があり、そういった点では業務が複雑になりやすいといえるでしょう。

もちろん各建物ごとに管理権原者が違う場合には、個々の防火対象物の用途や収容人員などにより防火管理者が要か否かを決定して選定します。上記の例のような防火対象物であれば個々の収容人員が50人以上ではないので防火管理者は必要ありません。

 

(2)1つの防火対象物に複数の用途がある場合

また1つの防火対象物に複数の用途がある場合には個々の用途(事業所)ごとではなく、防火対象物全体の収容人員により防火管理者が要か否かが決まります。

例えば小さな雑居ビルで

  • 1階が4項(物品販売店)(収容人員10人)
  • 2階が4項(物品販売店)(収容人員10人)
  • 3階が3項・ロ(飲食店)(収容人員9人)
  • 4階が15項(事務所)(収容人員10人)
  • 全体の用途は16項・イ(複合用途防火対象物)
  • 共用部分は建物のオーナーが管理している

上記の用途(事業所)すべての管理権原が分かれている場合でも、個々の収容人員ではなく防火対象物全体の収容人員で算定します。ですので収容人員は合計で39人となりこの防火対象物は防火管理者の選任が必要ということになり、個々の用途(事業所)ごとに防火管理者を選任して防火管理業務を行わなければなりません。

共用部分については、管理しているオーナーが防火管理者を選任して防火管理業務を行わせる必要があります。ですので、この防火対象物には5人の防火管理者が必要ということになります。

 

統括防火管理者について

上記のような1つの防火対象物に複数の用途(テナント)がある場合に、それぞれのテナントの防火管理者同士が連携して一体となり防火対象物全体の防火管理を行えるように、建物の所有者や各テナントの管理権限者は協議して統括防火管理者を選任し、防火対象物全体についての防火管理業務を行わせなければなりません。

(1)統括防火管理者が必要な建物

統括防火管理者が必要な建物は管理権原が分かれているもので、以下に該当するもの

  1. 高層建築物(高さが31mを越える建物)。
  2. 地下街(16項の2)で消防長や消防署長が指定するもの。
  3. 準地下街(16項の3)(建築物の地階(地下街(16項の2)の各階を除く))で、連続して地下道に面して設けられた部分と、地下道を合わせた部分。(政令別表第一の1項~4項、5項・イ、6項、9項・イの用途に使用される部分があるものに限る)。
  4. 政令別表第一の6項・ロ、及び6項・ロの用途を含む16項・イの防火対象物で、地階を除く階数が3以上で、かつ、収容人員が10人以上。
  5. 特定防火対象物で地階を除く階数が3以上で、かつ、収容人員が30人以上(上記の1~4を除く)。
  6. 政令別表第一の16項・ロの複合用途防火対象物で、地階を除く階数が5以上で、かつ、収容人員が50人以上。(上記の1~5を除く)

になります。

また、統括防火管理者を選任した場合に、管理権原者は速やかに所轄消防へ届出を行い、併せて防火対象物全体の消防計画の作成及び、それに基づく訓練などの防火管理業務を行わせなければなりません。解任した場合にも速やかに届出を行う必要があります。

 

(2)統括防火管理者の要件

統括防火管理者を選任するのにはいくつかの要件があります。その要件は消防法施行規則第3条の3に規定されています。

  1. 防火管理者の各管理権原者から、それぞれが有する権限のうち、当該防火対象物の全体についての防火管理上必要な業務を適切に遂行するために必要な権限が付与されていること。
  2. 防火対象物の各管理権原者から、当該防火対象物の全体についての防火管理上必要な業務の内容について説明を受けており、かつ、当該内容について十分な知識を有していること。
  3. 防火対象物の各管理権原者から、当該防火対象物の位置、構造及び設備の状況その他全体についての防火管理上必要な事項について説明を受けており、かつ、当該事項について十分な知識を有していること。

要点としては

  • 各管理権原者が協議して選定するので、各管理権原者から信用・信頼がある。
  • 防火管理業務を十分に遂行できる知識がある。
  • 防火対象物の位置・構造・設備(消防用設備など)についての十分な知識がある。

などの要件にあてはまる方は、統括防火管理者として選任されるかもしれません。

 

(3)統括防火管理者の責務など

統括防火管理者には防火対象物全体の防火管理業務について以下の責務が課せられます。

  1. 防火管理者全体についての消防計画を作成して所轄消防に届出なければならない。
  2. その消防計画に基づいた消火・通報・避難の訓練の実施、防火対象物内の避難施設(廊下・階段・避難口など)の維持管理、その他必要な防火管理業務を実施しなければならない。
  3. 防火対象物全体の防火管理業務を行うときは、必要に応じて各管理権原者の指示・意見を求めて、職務を誠実に遂行しなければならない。

防火対象物全体の防火管理業務になりますので、消防計画の作成から、訓練の実施など業務は多岐に、多量になります。

 

(4)各防火管理者への指示権について

消防法第8条の2第2項において、訓練の実施や、避難設備の維持管理など各防火管理者の管理する部分について、それぞれの防火管理者が業務を適正に遂行していない為に統括防火管理者が業務を適正に遂行出来ない状態に陥った場合(防火対象物全体の訓練への不参加や、避難施設への物品存知の放置など)に、各防火管理者へ必要な措置を講ずる指示をすることができるとしている。

例えば

  • 防火対象物の廊下などの避難経路に、障害となる物品を存置してある状態を改善しようとしないので、物品を撤去するように指示する。
  • 防火対象物全体の消防計画に従って行われる訓練に参加しない防火管理者に訓練に参加するように指示する。

などの指示を行うことができる。

 

防火管理業務の一部委託について

防火管理の基本は、以前の記事でも記載しましたが、「自分のところは自分で守る」という自主防火管理の原則にあり、管理権原者や防火管理者が先頭に立ち、全関係者(従業員など)がそれぞれの役割を遂行することにより守っていくというのが基本になります。

ですが近年は警備会社やビルメンテナンス会社などに、防火対象物の警備を委託して夜間などに機械監視方式や警備員巡回方式・常駐方式で防火対象物を管理している建物が増えてきて、それに伴い警備だけではなく一部の防火管理業務(火気使用部分の点検や火災発生時の初期消火や通報など)についても委託するというのが増えてきています。

これらの防火管理業務の一部委託について、委託された防火管理業務とその他の防火管理業務とが連携して一体的な防火管理がなされなければなりません。

また火災発生などの時には統括された指揮系統に基づき警備会社及びビルメンテナンス会社の警備員や従業員が一体となり統一感のある行動がとれなければなりません。

その為にも普段からこれらの警備員に対して指揮命令系統や各自の役割分担を明確にして、消防計画に基づいた適正な業務が遂行されるように務めなければなりません。

したがって防火管理業務を一部委託する場合には消防計画に

  • 委託先の住所、氏名(法人名)
  • 委託者が行う防火管理上の業務の範囲と方法

これらを明記して適正に業務が推進されるようにする必要があります。

例えばよくある夜間や休日などに機械警備で火災監視する場合に、火災報知機から移報を取り火災が発生したことを監視しますが、この火災発生(非火災含む)の場合に警備会社が行う行動として

  • 管理権原者や防火管理者に連絡だけ行う。
  • 防火対象物へ警備員を派遣して現場確認を行い判断する。
  • 現場確認をしないで発報したら即座に消防へ通報を行う。

などの行動がありますが、これらも詳細に決めておかないと後々責任の所在について口論することになりかねませんので注意しましょう。

これらの一部委託によって管理権原者が法令に基づく責任を免除される訳ではないので、「防火管理業務は警備会社にまかせてあったので責任はない!」といった言い訳は通用しません。その為にも管理権原者や防火管理者は消防計画に基づいた適正な指示・委託・業務の推進を行い、防火対象物の防火管理業務を有機的に行わなければなりません。

 

自衛消防の組織について

(1)自衛消防の組織

自衛消防の組織とは、火災などの有事に消防隊が到着時するまでの間、通報・初期消火・避難誘導など行い被害を最小限にするための組織です。自衛消防隊とか自衛消防の為の組織とも言います。

消防計画の中であらかじめ役割分担を決めておき、火災発生などの際に隊長を中心に通報連絡班・消火班・避難誘導班に別れてそれぞれの役割分担を迅速かつ的確に遂行して被害を食い止めるものになり、これらは消防法施行規則第3条第1項第1号に記載があります。

これには事業所の規模などは関係なく、防火管理者を選任しなければならない防火対象物には自衛消防の組織を消防計画に取り決めて、日々の教育及び訓練を行い有事に備えておく必要があります。

これに似たものに「自衛消防組織」がありますが、上記の「自衛消防の組織」とは違う内容になります。

 

(2)自衛消防組織

こちらは(1)の自衛消防の組織とは別物ものになり、自衛消防組織を設けるべき防火対象物(建築物の規模)が決まっています。その要件は

  • 政令別表第一の1項〜4項、5項イ、6項〜12項、13項イ、15項、17項の防火対象物や用途で
  • 地階を除く階数が4階以下で延べ面積が50000㎡以上。
  • 地階を除く階数が5階以上10階以下で延べ面積が20000㎡以上。
  • 地階を除く階数が11階以上で延べ面積が10000㎡以上。
  • 延べ面積が1000㎡以上の地下街(16の2項)

になります。多数の者が出入りして、かつ、大規模な建築物は該当する可能性があるということです。

自衛消防組織の業務は、上記の「自衛消防の組織」と違い大規模建築物で多数の者が出入りするので、それに見合った組織内容になります。

まずは、隊長になるべき人間が「統括管理者」として指揮を執り行いますが、この統括管理者は、自衛消防の業務に関する講習を修了した者(またはそれなりの学識経験がある者)でなければなれません。それだけ指揮をとるのに知識や技術が必要になるということです。また、統括管理者の直近下位で各業務を掌握する統括者(班長など)にもこの自衛消防の業務に関する講習を受けさせ、講習修了した者しか統括者になれません。

またこの自衛消防組織を設けなければならない防火対象物は、防災管理対象物にも該当するので、防災管理者を選任して防火管理を行わなければなりません。

 

まとめ

最後までご覧頂きありがとうございます。

「防火管理者の責務と業務」ということで2部制で説明させていただきましたが、私も防火対象物点検などで防火管理者さんとお話させていただいたりする中で、防火管理者さんも意外に業務内容を忘れていたりということがあり、たまには業務内容の復習やこれから新規で防火管理者になられる方の予習といった点で説明させていただきました。

防火対象物の用途により消防計画における重点が違うので一概には言えませんが、消防計画にうたった事柄は覚えておいて頂けると幸いかと。

特に避難経路の確保と、火気使用設備の監視・点検は重要な項目かと思うので、どんな用途でも気にしてくださると助かります。

日々通常業務(会社の仕事)を行いつつの防火管理者の業務なので色々大変かと思いますが1点だけ申し上げます。防火管理台帳は整理しておいてください。訓練実施計画書などの書類はすぐに綴じてください。探すのに1時間かかりますので(笑)