防火対象物定期点検報告制度とは

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皆さんこんにちは。

今回はこの防火対象物定期点検報告制度(以下、防火対象物点検)が創設された背景や、その点検が必要な防火対象物などをお話していこうと思います。

今回の内容には特定1階段防火対象物というワードが出てきますので、事前に内容を把握しておくと今回の記事の内容がより早く理解出来ると思います。

特定1階段防火対象物について詳しくは下記の記事を参照してください。

特定一階段等防火対象物とは
この記事では特定1階段防火対象物(以下、特定1階段)についてお話しています。特定1階段の概要(創設された経緯や法令文章)、特定1階段に該当する例としない例(例図を用いて解説)、特定1階段に対する消防用設備等の規制強化について詳しく解説しています。

 

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創設された背景

この防火対象物点検が創設された背景には皆さんご存知かもしれませんが、2001年(平成13年)の9月に発生した新宿歌舞伎町の雑居ビル火災(明星56ビル)を発端に創設されました。

この火災は焼損床面積がわずか160㎡にもかかわらず死者44名の大惨事火災となり、戦後5番目の被害になりました。

これだけの被害が出てしまった理由としては、

  1. 自動火災報知設備は設置されていたが、ベルなどが鳴動しなかったため火災の報知が遅れた。
  2. エレベーターホールと居室の間にある防火戸が物品存置により有効に閉まらない状態であったことと、居室内が窓等の開口部の少ない密室に近い状態だったために一気に煙などが充満してしまった。
  3. 避難に使用できる階段が屋内に一つだけしかなく、また火災によりこの階段から避難できなかった。(3階のエレベーターホールから出火)
  4. 上記の階段以外に避難できる設備がなかった(3階には避難器具無し、4階には避難器具があったが実質使えない状態だった、)。
  5. 防火管理者の未選任や消防計画の未作成などの防火管理の不備(避難階段に物品などかあり避難障害だったなど)。

上記の理由(原因)により多数の死者が出てしまったと推察されています。

これらを踏まえて2002年(平成14年)に消防法改正になり、今回の記事タイトルにある防火対象物点検の制度が創設されました。

 

改正された消防法の内容

上記の火災の原因を踏まえて以下の事が改正されました。

  1. 違反是正の徹底
  2. 防火管理の徹底
  3. 避難安全基準の強化
  4. 罰則の強化

ではそれぞれ確認していきましょう。

 

違反是正の徹底

以前、消防機関の立入検査は行える時間が決まっていたり、事前に通知しなければならないなどの制限がありました。

ですがこの改正によって事前通告無しに24時間いつでも立入検査を行えるようになり、雑居ビルなどに多い深夜営業の物件にも立入検査を容易に行えるようになりました。

これにより、消防用設備等や防火管理の違反確認や是正確認を行って、万が一火災予防上支障(危険)があるとなった場合はその場で消防吏員(しょうぼうりいん)が改善等の措置命令や使用禁止命令などを発動することが出来るようになりました。

消防吏員については下記の記事を参照してください。

 

防火管理の徹底

以前は防火対象物の防火管理について、テナントごとの管理権限者や防火管理者についての権限の範囲があまり明確ではなかった為に防火対象物全体の防火管理に不備などが発生しやすかったなどの点を踏まえて管理権原者・共同防火管理の明確化を行いました。

管理権原の分かれている防火対象物の場合(雑居ビルなど)には、消防計画にその権限の範囲を記載して明確化するとともに、共同防火管理協議会を設置してその代表者を選出し、その代表者を先頭に防火対象物全体の防火管理を進めて行きましょうという風に変りました。

もちろん防火管理者もある程度の知識がなければ防火管理が務まりにくいので、防火管理者を養成するという制度も併せて整備されました。(防火管理者講習の機会の確保及び講習内容の充実など)

そして、この防火管理者の防火管理業務をハード面(実際に物品存置がないか、防炎物品が使われているかなど)とソフト面(防火管理台帳の作成や書類の保存、訓練を必要回数行っているかなど)から確認・点検する制度として防火対象物定期点検報告制度が整備されました。

この点検制度導入により、防火管理の業務を防火管理者と防火対象物点検の両方で確認しあいながら防火管理の強化及び徹底を行うという改正になりました。

 

避難・安全基準の強化

上記火災の際に物品があり防火戸が閉まらなかった、自動火災報知設備が鳴動しなかったなどの問題点から、避難上必要な施設等の管理の義務付けや火災の早期発見・通報等、新たな形態の風俗店などへの対応を行いました。

避難上必要な施設等には、避難口、避難廊下、避難階段、防火戸、防火シャッターなどがあり、これらの部分に物品を置いたり、又避難の障害となるような物品が無いかを監視・管理し、同時に防火戸・防火シャッターの閉鎖障害となる物品などが無いかなども管理しなければならなくなりました。

そして、火災の早期発見には自動火災報知設備の設置対象の拡大を行い、政令別表第一の16項・イ(複合用途防火対象物)では延べ面積300㎡以上とし、特定1階段防火対象物については延べ面積関係なく全てに設置が必要になりました。

また、再鳴動機能付きの自動火災報知設備の設置義務や階段室に設置する感知器の設置基準の見直しなども併せて行いました。

新たな形態の風俗店等への対応として、政令別表第一に新しく項(2項・ハ)を追加し、多様化の進む業界への対応を行いました。

 

罰則の強化

この法令改正により罰則も大幅に強化されました。

以前は防火対象物に係わる措置命令違反等についての罰則(違反内容により異なる)は、行為者に対しては「懲役1年以下、又は50万円以下の罰金」となっていましたが、法令改正後は「懲役3年以下、又は300万円以下の罰金」に強化されました。

法人の場合にあっては「罰金50万円以下」から「罰金1億円以下」と200倍に強化されました。

 

防火対象物点検が必要な防火対象物

では、この防火対象物点検はどのような基準で必要になるのでしょうか?この算定には収容人員と特定1階段防火対象物が関わってきます。

 

収容人員を確認したい方は下記の記事を参照してください。

 

特定1階段防火対象物については下記の記事を参照してください。

 

政令別表第一ってなに?って方は下記の記事を参照してください。

 

消防法施行令第4条の2の2(防火対象物の点検及び報告を要する防火対象物)では以下の様に定まっています。

防火管理者選任義務対象物のうち政令別表第一の1項〜4項、5項・イ、6項、9項・イ、16項・イ、16の2項に掲げる防火対象物で

    1. 収容人員が300人以上の防火対象物
    2. 上記A.の他、収容人員が30人以上(政令別表第一の6項・ロでは10人以上)300人未満で、かつ特定1階段防火対象物のもの。

また、防火管理者選任義務対象物となっているので、収容人員が30人未満(政令別表第一の6項・ロは10人未満)であれば、たとえ特定1階段防火対象物であっても防火対象物点検は必要ありません。

 

まとめ

最後までご覧頂きありがとうございます。

今回は防火対象物点検の制度創設と防火対象物点検が必要な防火対象物についてお話させていただきました。

上記で紹介した新宿歌舞伎町雑居ビルでの火災の後に、全国の消防機関は消防庁の指示で同様の雑居ビルを一斉に立入検査を行いましたが、その結果は防火管理関係の違反は80%超え、消防用設備関係違反では40%、消防用設備等の点検報告違反は60%超えとなり、90%以上の雑居ビルで何らかの違反があったとされています。

90%以上の雑居ビルで違反があったということで、このような雑居ビルへの防火管理等を徹底することがどれだけ難しいかということも浮き彫りにされたということがこの統計でわかることができます。

確かに日々入れ替わるテナントの業種と代表者、深夜にしか営業していない店舗など、法令改正前の基準では立入検査もろくに出来ない現状など、防火管理の難しさが良くわかる気がします。

法令改正を行い、防火管理業務も防火管理者と防火対象物点検資格者との連携で徹底した防火管理となるような改正になり、今後このような火災が2度と起こらないような体制になっていければと思います。